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現地観戦コラム

2021年ウィンブルドンとロンドン市街の様子を
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【テニスライター 内田暁 現地コラム】錦織圭1&2回戦 観戦記

 ウィンブルドンテニスといえば、センターコートに絡む鮮やかな蔦の緑に、会場内を美しく彩る色とりどりの花。そして観客席で一斉に咲く、傘の花も名物である。

 今年は開幕と同時に、その傘の花が百花繚乱。連日の降雨のためにスケジュールは乱れに乱れ、大会2日目に予定されていた多くの試合が、3日目に順延となることになる。結果、1回戦と2回戦が連戦となった選手も少なくない。錦織圭も、そんな“連戦組”の一人だった。

 2年ぶり開催のウィンブルドンテニス初戦は、錦織にとって、この2年間で僅か3試合目の芝のコートでの公式戦だった。

 全仏オープンの赤土から、ウィンブルドンテニスの芝への移行は、テニス界で最も困難なチャレンジだと言われている。

 条件はどの選手も同じではあるが、全仏時から手首の痛みを抱えていた錦織は、万全の準備をして今大会を迎えたとは言い難い。それでも1回戦のアレクセイ・ポプリン戦では、これまでウィンブルドンテニスで31試合戦ってきた知識と知恵を動員し、6-4, 6-4, 6-4のスコアで快勝。21歳の相手に経験の差を示した勝利は、グランドスラム通算100勝目の金字塔でもあった。

 その試合から、約24時間後に迎えた2回戦。

 ランキング通りなら第12シードのキャスパー・ルードが来るかと思われたが、実際にネットを挟んで対峙したのは、78位のジョーダン・トンプソン。2年前の芝シーズンで好成績を残したオーストラリアの27歳は、今年も既に芝で3大会を戦い、自信を胸にウィンブルドンテニスにのぞんでいた。

 1回戦は、客席数の限られた17番コートに組まれた錦織の試合だったが、2回戦の舞台となったのは18番コート。前日に、西岡良仁がジョン・イズナー相手に、“ジャイアント・キリング”を演じたステージでもある。

 ウィンブルドンテニスの大会会場である“オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ”は、丘陵地帯に広がっているため、高低差が意外に激しい。

 敷地内で最も標高が高い地点は、“ヘンマン・ヒル”もしくは“マリー・マウンテン”の愛称で知られる、芝生エリア。18番コートは、このヘンマン・ヒルからセンターコートに続く坂道の中腹に張り付くように位置するため、どこか浮遊感の漂う不思議な空間となっている。11年前、ジョン・イズナーとニコラ・マウが、3日間にまたがる11時間5分の伝説の死闘を繰り広げたのも、このコートだ。

 18番コートのプレスシートはコートサイド、ベースラインの延長戦あたりにある。

 そこからの景色がテレビのそれと大きく異なるのは、ベースラインからネットまでがいかに遠いか実感できること。そして、ボールの高低差が分かりやすいことだ。特に、滑るようにバウンドするスライスが、いかに芝で効果的かを目の当たりにすることができる。

 この日のトンプソンのプレーは、その二点を、特に印象付けるものだった。

 彼の放つスライスは、あまりの軌道の低さにネットに掛かるかと思われるが、そのボールが浮き上がるようにネット上ぎりぎりを通過し、そのたび客席から感嘆の声が漏れた。

 錦織がネット際に沈める絶妙なドロップショットをも、出足鋭く追いつき鋭角に打ち返す。サーブも広角に打ち分けるトンプソンのプレーに、錦織は重圧を覚えたと言った。

 並走状態で迎えた第12ゲームを落とし、第1セットを失う錦織。

 第2セットでは、「イップス的な感じ」と言うほどに、突如としてフォアのストロークが狙いを外れだす。

 第2セットを落とし、第3セットも先にブレークされる苦しい展開。そこから、ようやくフォアの感覚を取り戻し第3セットは逆転で奪うも、第4セットでは、またミスが増え始めた。それでも、豊富な球種と戦術でなんとか食らいつくが、第8ゲームを落として万事休す。最後はセンターにエースを叩き込まれ、錦織の2021年ウィンブルドンは、5-7, 4-6, 7-5, 3-6のスコアで幕を閉じた。

 初戦の快勝後に錦織は、芝を「サーブとリターンとボレーと……なにか一つ良ければ、勝つチャンスがあるコート」だと言った。加えるなら、気象状況等によって、特性が変化するコートでもある。

 2回戦で錦織を襲ったのは、そのような芝の魔力だっただろうか?

 雨にも翻弄された短い芝の季節を終えた錦織は、母国日本で開催される、オリンピックのハードコートへと備える。

内田暁

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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